我々は生命を作れるのか 合成生物学が生み出しつつあるもの 藤崎慎吾 (ブルーバックス) のインプレ・レビュー・評価
我々は生命を作れるのか 合成生物学が生み出しつつあるもの 藤崎慎吾
インプレ・レビュー・評価
著者はあの「ニュートン」編集室に在籍していたSF作家。
内容は合成生物学や「宇宙生物学」の若手研究者の研究に焦点を当てたもので、生命科学を考える上でヒントになることがいくつかあった。
(一方でそこで紹介されている「新しい分野」が研究として形になるビジョンが見えず、そのような分野に挑戦する研究者の苦労も伝わってきた)
文章は個人的に、ところどころ鼻につく文体があった。(例をわざわざ難しい漢字で書いたり、読者への問いかけも過剰だった。) しかし「素人の疑問を全て解消できるように」徹底して書かれており,非常にわかりやすかった。
構成については全体として「生命とは何か」という流れで通そうとした苦労がうかがえるが、やはり多岐にわたる内容なので支離滅裂になっている感は否めない。しかし、これは文学でないので「正解」な気がする。
ちなみにこの本は「生命1・0への道」というweb連載を基にしているらしいです。
読書に要した時間はこれを書きながらだと2時間半くらいでした。
印象に残った内容の紹介
このように内容まとめてるブログもあるのですが、(アマゾンのアフィリエイト収入狙いなんだろうけど)「本当に読んだのか?」という内容の薄さなので僕も書いてみます。あくまで自分が知らなくて面白いと思ったことだけ
藤崎慎吾『我々は生命を創れるのか』 - logical cypher scape2
本書の起源
- 熱水噴出口では微弱な電流が発生しており、それを利用して有機物を作る細菌がいる。
「起源」の不思議
南米の一般社会から隔絶された、ヤノマミ族は森の中で出産し、生涯のあった場合にシロアリの巣に入れ、数日後放火する
「日本諸事要録」1538、イエズス会 日本人が中絶や乳幼児を殺すことを非難
「日欧文化比較」1585、ルイスフロイス 二十回も堕胎した人の紹介
カッパ(川に流した子供)や座敷わらし(室内で殺した子供)
「生命の起源」を探す
原子大気に放電してアミノ酸を作ったスタンリーミラーの実験は、当時の大気の組成が異なっていたため、間違っている。
「熱水噴出孔」起源vs「陸上の池」起源の論争があった
現在も陽子線放射や球の衝突を原子大気を再現したものに実行し、生命誕生を再現しようとするグループは多い。
「生命の起源」をつくる
豊田太郎 界面活性剤に油滴を垂らすと界面活性剤の濃度の高い方に移動して行く。リオトロピック液晶(分子が並んでいる)など材料を工夫するとさらに複雑な動きをする。
PURE flex 試験管内でタンパク質合成。大腸菌のtRNA,ATP,RNAポリメラーゼが入っている。DNA配列に基づいたタンパク質を生産。
αヘモリシン 黄色ブドウ球菌が分泌する毒。細胞膜を破壊。赤血球を壊し毒として働く。
ヴィンセントノワローはPURE flexのようなシステムを膜内に再現、αヘモリシンにより細胞に穴を開けて栄養を供給して人口細胞を作ったと主張。
自己複製の実現が課題。
「生命の終わり」をつくる
細胞の崩壊(死)の逆を再現して細胞の合成を行おうとする研究がある.
スラウェシ島 死者をなかなか埋葬せず、生存時と同じように扱う。
フランケンシュタインは怪物の名前ではなく、それを作り出した大学生の名前。
田端和仁 無数の小さい細孔の開いたガラス片である「マイクロチャンバー」でATP合成酵素の分子の挙動を調べている。脂質二重膜で蓋をすることができ、その容量は大腸菌一つと同じくらい。そのほかにも、大腸菌のプロトプラストを流すとマイクロチャンバーと融合し、そのあとの挙動を調べる(分裂などは行われている。)なども行なっている。
岩崎秀雄 シアノバクテリア(アナベナ?)の小さい細胞、大きい細胞が合成される時の因子の違いについて調べている。